金の価格推移
金価格は明治以降、昭和48年(1973)4月の「金輸入自由化」まで、日本銀行が決定する「公定価格」だった。自由化以前は、金本位制のもと、国内から産出される金はすべて日銀が買い上げ、一部が装飾品用として市場に供給されていた。このため、長い間、金は投資・投機の対象となることはなかったのである。明治・大正年間、金の公定価格は物価水準(インフレ度)の推移に合わせ、徐々に引き上げられていたが、1g当たりほぼ1円台だった。
昭和に入り、戦時の膨張予算によってインフレが高まると、2円台から4円台まで引き上げられた。敗戦後は超インフレと円への信頼が薄れたことから、昭和21年(1946)には戦前の30倍近い1g150円、翌22年には倍の300円台に決められた。その後、1ドル=360円時代が続いたことを背景に、金価格は1g当たり690円~660円の「固定相場」になっていた。
昭和47年(1972)2月、円対ドルのレートが変動相場制に移行した。同年4日に金の輸入自由化が実施されると、国内の金価格は国際相場と連動して、為替相場にも左右されるようになり、たちまち1g当たり千円を突破する。とくに翌1973年10月に原油価格を急騰させた第1次石油危機が起こっている。政治・経済危機が発生すると、国際相場商品である金にリスクヘッジを求める行動が起こり、金相場は国際的に高騰する。わが国で、金が投資対象として一般的になったのは、1978年4月の金輸出自由化以降といえる。
金の完全自由化後の最高値は、1980年の1g当たり6495円である。この背景にも戦争の危機があった。79年2月にイラン革命が勃発し、第2次石油危機が起こる。11月にテヘランの米大使館占拠事件、12月にソ連軍のアフガニスタン侵攻、翌年に入るとイラン・イラク戦争が本格化した。
金価格は80年をピークに値下がり傾向にあった。要因の第一は、冷戦時代の終結だ。"不安からの逃避手段"としての金購入の行動が沈静化し、もっぱら装飾品需要になっていることである。金の産出技術の向上によるコストダウン、電子機器からのリサイクルが進んだことも指摘されている。金価格は国際政治・経済の動向に敏感に反応しちつも、国家戦略物資から装飾品や工業用の高級素材の価値に変化してきた。だが、リスクヘッジの人気は依然強い。
地金市場相場 | |||
明治初期 | 67銭 | ||
大正6年(1917) | 1円36銭 | ||
昭和元年(1926) | 1円49銭 | ||
昭和10年(1935) | 3円20銭 | ||
昭和15年(1940) | 75銭 | ||
昭和20年(1945) | 4円80銭 | ||
昭和21年(1946) | 17円 | ||
昭和22年(1947) | 150円 | ||
昭和23年(1948) | 326円 | ||
昭和24年(1949) | 385円 | ||
昭和25年(1950) | 595円 | ||
昭和29年(1954) | 595円 | ||
昭和30年(1955) | 690円 | ||
昭和35年(1960) | 595円 | ||
昭和46年(1971) | 775円 | ||
昭和47年(1972) | 790円 | ||
昭和48年(1973) | 1140円 | ||
最高値 | 最安値 | 年平均 | |
昭和49年(1974) | 1955円 | 1045円 | 1596円 |
昭和50年(1975) | 1835円 | 1365円 | 1616円 |
昭和51年(1976) | 1435円 | 1015円 | 1255円 |
昭和52年(1977) | 1450円 | 1210円 | 1341円 |
昭和53年(1978) | 1480円 | 2475円 | 3068円 |
昭和54年(1979) | 3985円 | 1418円 | 2219円 |
昭和55年(1980) | 6495円 | 3645円 | 4499円 |
昭和56年(1981) | 3895円 | 2830円 | 3311円 |
昭和57年(1982) | 4220円 | 2475円 | 3068円 |
昭和58年(1983) | 3975円 | 2895円 | 3296円 |
昭和59年(1984) | 3080円 | 2480円 | 2808円 |
昭和60年(1985) | 2800円 | 2125円 | 2490円 |
昭和61年(1986) | 2410円 | 1810円 | 2044円 |
昭和62年(1987) | 2390円 | 1995円 | 2133円 |
昭和63年(1988) | 2070円 | 1662円 | 1845円 |
平成5年(1993) | 1979円 | 1588円 | 1725円 |
平成10年(1998) | 1395円 | 1118円 | 1287円 |
平成18年(2006) | 2562円 | 986円 | 2287円 |