外国のテレビドラマ

日本の子どもたちが"テレビ・ジプシー"をやっていた昭和30年代初め、アメリカではほとんどの家庭にテレビが普及していた。日本の茶の間に初めて外国のTVシリーズがお目見えしたのは昭和31年。「カウボーイGメン」というアメリカの西部劇風アクション番組だった。それから、おびただしい数のテレビ映画がアメリカから輸入され、日本の茶の間を"占領"する。

スーパーマンが死んだ日

スーパーマン

昭和30年代に子どもだったかすかな記憶と、わずかな資料を手がかりに、当時のテレビに何を見て、何を感じていたのかを再現するのは、容易ではない。まず"当時"というのが正確にはいつだったのかも分からない。"わが家にテレビが来た日"は、いったいいつだったのだろう?アニメ版の『スーパーマン』を放送があり、続いて実写版『スーパーマン』が始まった。『スーパーマン』は後に最高視聴率73%(74.2%とも)を記録した。手元の資料によると放送開始は31年11月3日(KRテレビ)からだ。

日本テレビ(NTV)、ラジオ東京=KRテレビ(現・TBS)に続き、わが国で三番目の民放テレビとして中部日本放送テレビ(CBC)が31年12月1日に開局した。同じ日、大阪テレビ(現・ABC朝日放送)も開局。これで三大都市エリアではNHKと民放のテレビを見られるようになった。

1955年4月、大映「地獄門」がアカデミー賞最優秀外国映画賞に決定。映画界は黄金期のうま酒に酔っていた。テレビでも多くの劇映画が放送され「カルメン故郷に帰る」「ここに泉あり」「源氏物語」などの話題作がすでに電波にのっていた。だが、テレビの普及がようやく伸展し、観客の減少という映画への影響が心配され始めた。かくて邦画5社は昭和31年3月、放送料の値上げをめぐって対立したKRテレビに、4月以降の劇映画を提供しないと通告。さらに7月にNHKにも契約切れの10月以降は提供ない、と5社の社長会で決定した。それならばとテレビ局はアメリカのテレビ用映画の輸入に力を入れた。大部分は30分単位の連続ものだが、単純でテンポの早い活劇がなかなかの人気。元々アメリカのテレビ映画は、年間ぶっ通しで新作を放送しない。新作は多くても年間40本前後で、あとは再放送で繋ぎ、その間に来シーズンからも続行するか打ち切りか決めるという。

だから物語が完結しないまま打ち切られる番組も多い。製作が続行されることになっても、新シーズンからは日本に輸入されず、いつのまにか終わっていたという番組もある。『逃亡者』のように、日米とも物語が完結するまで放送されたケースは、むしろ珍しい。『スーパーマン』の場合は、主演のジョージ・リーブスの自殺(34年6月)によって終了した。当時の子どもたちにとって"スーパーマンが死んだ"というニュースは大きなショックだったらしい。スーパーマンはアメリカの象徴だった。当時の人はそのアメリカの豊かさを、テレビのホームドラマで見せつけられていた。大平透という吹き替えタレントが売り出したのも、この映画に声の出演をしたからである。

外国テレビ映画で最も注目されるのは、洋画を字幕で見せず声の吹き替えを使ったことである。そのままの声で字幕にするか、日本人の声を入れるかで意見が分かれたが小さい映像に字を入れるのは見にくくなるし、子供向けには声の方がわかりやすいだろうというので吹き替えになった。新聞などは不自然だとか騒いだものだが、視聴者にとっては新鮮な驚きだった。

名犬ラッシー

パパは何でも知っている 』(KRテレビ33~39年)や『うちのママは世界一(フジテレビ 34~38年)などはもちろん、けっして豊かとはいえない農家を舞台にした『名犬ラッシー』(KRテレビ32~39年)や、アニメの中の家庭でさえ例外ではなかった。パパがガレージの車で仕事に出かける。ドロップハンドルの自転車に乗った少年が、広い芝生の庭に分厚い新開を無造作に投げ込んでいく。家の中は土足で入っても、大きな犬を飼っていても、いつもピカピカしていて、蝿も蚊もゴキブリもいない。ドレスを着たママが奇妙な形の真空掃除機かけ、手作りのパイを窓辺におく。子どもたちは巨大な電気冷蔵庫から、巨大なビンに入った牛乳を取り出して飲み、犬にまで飲ませてやる。それは僕らの生活とはあまりにもかけ離れていて"生活様式の違い"などという生やさしいものではなかった。"貧富の差"を超えた、異質の"文明"そのものであり、それをうらやましいと感じるだけの現実的な感覚すら傍らにはなかった、といっても大けさではない。そのアメリカ文明の象徴スーパーマンの死は、さらに非現実的な、信じ難いことだった。

初期の外国テレビ映画では『名犬リンチンチン 』『アニーよ銃をとれ』(KRテレビ32~33年)『ローン・レンジャー』(KRテレビ33~34年)などの子ども向け西部劇=キッズ・ウエスタンが人気を博した。

名犬リンチンテンは動物スターの元祖(第一次大戦直後に映画デビュー)であり、第二次大戦後、名犬ラッシーとともにテレビでも大成功を収めた。ラッシーがホームドラマだったのに対し、リンチンチンは騎兵隊で少年と活躍する西部劇である。よく訓練された犬を主人公にするというのは、アメリカならでは。日本ではとても作れない映画で、子供に大人気だった。一時は犬を飼うのがブームになったほどだった。その後、彼らのあとを追って各種動物スターが続出する。キッズ・ウエスタンでは殺人などの暴力描写は、きわめて少なかったように思う。のちに大人向けのアダルト・ウエスタンが登場し、一大ブームとなった理由のひとつは、やはりその派手なガンプレイの魅力にあったようだ。あれほど暴力描写にうるさいアメリカのテレビ界で、なぜ西部劇は規制されなかったのか不思議な気もする。国民ドラマ、あるいは大人向けということで大目に見られていたのだろうか。逆に暴力描写に鈍感な日本のテレビで、NHKが"暴力追放"のために『ハイウェイ・パトロール』(31~35年)と『西部のパラディン』(35年)を打ち切ったのは、異例のことかもしれない。打ち切り決定は安保闘争の真っ只中であり、子どもたちの堕しは"デモ隊ごっこ"や"早撃ちごっこ"が流行していた。

スパイ大作戦

テレビ西部劇は隆盛を続け、子どもたちはキッズ、アダルトの区別なく、西部劇なら何でも見ていた。モデルガンがブームになり、テレビ西部劇専門誌まで登場した。その内容は新作情報から西部の歴史、銃器の図解まで、驚くほど詳細だ。教育テレビ局としてスタート(34年2月1日)したNET(現:テレビ朝日)では、初の一時間枠西部劇『ローハイド』『ララミー牧場』などをゴールデンタイムにぶつけて、他局に対抗しようとした(のちに『ローハイド』は夜の10時台に移行)。特に『ララミー牧場』の人気はすさまじく、巨人戦のナイター中継を上回る40%台の視聴率(NETと電通の調査)を記録。

『西部こぼれ話』コーナーの解説者・淀川長治は"ニギニギおじさん"の愛称で親しまれ、少年誌にも登場した。

昭和38年は新番組が50本台に達し最高記録となったが、大ヒットになるような作品は少なく、外国TVシリーズの衰退を予感も。西部劇の方は新番組の数がさらに減少、西部劇と並行してギャングもの、刑事もの、戦争ものなどが輸入されたが、全体としては西部劇ほどのブームには至らなかった。しかし、個々の番組は日本製テレビ映画のお手本となり、数多くの類似番組が作られた。特に子どもたちがよく見ていたものとしでは『0011ナポレオン・ソロ』(NTV40~43年)や『スパイ大作戦』(フジテレビ42~48年)などのスパイ・アクションがある。前者は、おねえ言葉のふざけたセリフ(『アラビアのクリヤキン』『アンクルマンに明日はない』など邦題のサブタイトルもふざけていた)、イージーだが妙にカッコイイ秘密兵器、アンクル対スラッシュのなれあいスパイ合戦が楽しく、映画の007よりもむしろ人気が高かったようだ。後者は、巧妙なトリックとアッと驚くドンデン返しが売りものだったが、メンバーが代わるたびにトリックもストーリーもチャチになり、いつのまにか終了してしまった。

42、3年ごろを最後のピークとして外国テレビ映画は衰退し始める。ゴールデンタイムから姿を消し、視聴率は下降線をたどり、本数も激減する。かつて、自前のテレビ映画を量産する金と力のない日本のテレビ局にとって、外国テレビ映画は救いの神だった。やがて日本はアメリカに次ぐ世界第2位の経済大国となり、白黒30分の外国TVシリーズが初めてお茶の間に入り込んできた興奮も次第に消えていった。それがのちには、何十億もの金を出して外国の劇映画を買いあさるようになる。

TV西部劇の全盛期

曜 日 局 名 時 間 題 名
TBS 9:00~9:30 警察犬キング
NTV 13:15~14:15 駅馬車西へ
NTV 20:00-21:00 幌馬車隊
NET 21:15~21:50 ブロークン・アロー
NTV 19:00~20:00 ボナンザ
TBS 19:00~20:00 ブロンコ
NET 20:00~21:00 アウトロー
フ ジ 19:30~20:00 西部の対決
TBS 19:30~20:00 ライフルマン
フ ジ 20:00~20:30 ガンスモーク
NET 20:00~21:00 マーベリック
NET 20:00~21:00 ララミー牧場
フ ジ 19:30~20:00 胸に輝く銀の星
フ ジ 20:00~21:00 誇り高き男たち
NTV 21:15~21:45 モーガン警部
フ ジ 19:00~19:30 スミスという男
NET 19:00~19:30 ウエスタン特急
NTV 19:30~20:00 バウワウ坊や
フ ジ 19:30~20:00 拳銃無宿
NET 22:00~23:00 ローハイド
昭和36年9月第1週の放映スケジュール一覧表(東京)

アメリカ製 人気TVドラマ

(放映年 主演俳優)

1956
・KRT「スーパーマン」(~’59)ジョージ・リーブス
・NHK「ハイウェイ・パトロール」(~'59)ブローデリック・クロフォード
・NTV「名犬リンチンチン」(~'60)リー・アーカー
1957
・KRT「名犬ラッシー」(~'64)トミー・レテイング
・NHK「アイ・ラブ・ルーシー」(~'60)ルシル・ポール
・NTV「ヒッチコック劇場」(~’62)アルフレッド・ヒッチコック
1958
・KRT「ローン・レンジャー」(~’59)グレイトン・ムーア
・NTV「パパは何でも知っている」(~'59)ロバート・ヤング
1959
・NET「ローハイド」(~’65)エリック・フレミング、クリント・イーストウッド
・フ ジ「拳銃無宿」(~'61)スティーブ・マックイーン
・フ ジ「ペリーメイスン」(~’68)レイモンド・バー
・TBS「うちのママは世界一」(~'63)ドナ・リード
1960
・TBS「サンセット77」(~’61)エフレム・ジンバリストJr
・TBS「ライフルマン」(~’63)チャック・コナーズ
・NET「ララミー牧場」(~’63)ジョン・スミス、ロバート・フラー
・NTV「幌馬車隊」(~’63)ワード・ボンド
1961
・NET「アンタッチャブル」(~’62)ロバート・スタック
1962
・TBS「ベン・ケーシー」(~'64)ビンセント・エドワーズ
・TBS「コンバット」(~’67)ビック・モロー
1964
・TBS「逃亡者」(~’67)デビット・ジャンセン
1965
・NTV「0011ナポレオン・ソロ」(~’68)ロバート・ボーン、デビッド・マッカラム
・TBS「F・B・I」(~’75)E・ジンバリストJr
1966
・NHK「サンダーバード」(~'67)
英作品、人形劇
1967
・フ ジ「スパイ大作戦」(~’75)スティーブン・ヒル
・NET「インベーダー」(~’68)ロイ・シネス
・TBS「ザ・モンキーズ」(~’69)ザ・モンキーズ
1969
・TBS「鬼警部アイアンサイド」(~'75)レイモンドリマ-ドン
1973
・NHK「刑事コロンボ」(~’73)ピーター・フォーク
1975
・NHK「大草原の小さな家」(~'84)マイケル・ランドン
1977
・TBS「刑事スターキー&ハッチ」(~'81)ポール・マイケル・グレー
1987
・朝 日「ナイトライダー」(~'87)デビッド・ハツセルホフ

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