戦後昭和史 | NHKテレビ史

NHK特集&NHKスペシャル

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「NHKらしい番組とは何か」という答えの一つは、「本格的ドキュメンタリー番組」だろう。現代社会の諸課題との格闘から、歴史や文明への患い。そして科学の最先端。「NHKスペシャル」、その前身「NHK特集」が名作、力作を送り出した。

「NHK特集」の開始は、1976(昭和51)年4月15日放送の(氷雪の春 オホーツク沿岸飛行)から。オホーツクの流氷を小型VTRで空中撮影した。NHKの札幌と釧路の局が制作に協力した。それが当時は画期的だった。テレビドキュメンタリーはそれまでフィルム撮影が主流。VTR機材も重く、技術的にも「誰でも参加できる」ものではなかった。また、大組織の部局の壁も厚かった。「NHK特集」はこの壁を打破しながら進んだ。組織を横断するプロジェクトが作られ、「サムシング・ニュー」を合言葉に新しい分野に切り込んだ。軽便なVTRの活用が作り手を広げた。経済部の記者が参加した77年の(ある総合商社の挫折)は、安宅産業の海外融資のスクープを生み新聞協会賞。同年の(永平寺)はイタリア賞ドキュメンタリー部門大賞。自然の驚異を余すところなく伝えた78年の(ポロロッカ・アマゾンの大逆流)が毎日芸術賞と、高い評価を受け、弾みがついた。78年からは、週一回の放送枠が2回になり、84年には3回にもなった。惨年4月に「NHKスペシャル」の枠に引き継がれるまでに、1378本が放送された。受賞した国内外の賞は137を数える。

80年からの(シルクロード)は、印象的な喜多郎のテーマ曲とともにブームを引き起こした。84年夏の(世界の科学者は予見する・核戦争後の地球)は、全面核戦争とその後の世界をSFX的特撮で描いて衝撃を与えた。反響の大きさでは、87年からの(世界の中の日本Ⅳ 土地はだれのものか)。バブル最盛期の異常な地価の上昇と正面から取り組んだシリーズには、電話の反響だけで2万件を超え、投書も1500通、段ボール2箱に達した。一方では、81年の(川の流れはバイオリンの音 イタリア・ポー川)のような「普通のドラマ枠」には入らない個性的作品にも発表の揚を与えた。組織を柔軟にすることで個人の才能が開花し、組織自身も生き延びる。「NHK特集」という〝仕組み″そのものが、(プロジュクトⅩ)のテーマだったのかもしれない。

「NHKスペシャル」が始まった89年、昭和が平成に改まった年、東欧が揺れ11月にべルリンの壁が、91年にはソ連が崩壊する。「Nスペ」のラインアップも激動の世界に対応した。89年からの(北極圏)は変革に揺れるソ連社会を伝え、90年の(社会主義の20世紀)は、根源にさかのぼって同時代史を記録する優れたシリーズになった。やがて時代は「世紀末」。95年からの(映像の世紀)も、戦争と革命の20世紀への〝鎮魂″となった。コンピューターの進歩と普及も番組に反映した。89年の(驚異の小宇宙・人体)は最新のCGを駆使して科学番組の地平を開いた。91年の(電子立国 日本の自叙伝)は、技術の世界をテレビ的に分かりやすく伝えて好評だった。

インターネットの普及は番組作りにも影響を与えた。02年の(変革の世紀)シリーズは、情報学者らの協力で番組ホームページを運営、1万5682通の投稿が寄せられた。ネットと連動した視聴者参加の回も設けられた。「Nスペ」が民間のプロダクションに門戸を開いたことも大きな変化。介護の現場に密着した92年の(あなたの声が聞きたい〝植物人間″生還へのチャレンジ)。(なぜ隣人を殺したか ルワンダ虐殺と煽動(せんどう)ラジオ放送)(98年)の秀作は、共にプロダクションの女性ディレクターの作品。視聴率競争が苛烈になるにつれ、かつては競い合った民放のドキュメンタリー番組が〝雨夜の星″のようになって久しい。NHKへの期待は大きい。

●紀行

NHK特集 シルクロード

1980(昭和55)年
中国の長安を起点に中央アジアを横断し、ローマへと至る”絹の道”を取材し大ヒットした。

NHK特集 海のシルクロード

1988(昭和63)
地中海から中国へと至る"海のシルクロード"を美しい映像でたどった壮大なシリーズ。


●人

NHK特集 山口百恵 激写 篠山紀信

1979(昭和54)年
デビューから山口百恵を追い続けた写真家・篠山紀信の写真で彼女の魅力に迫った。


NHK特集 1年生になりました 
五つ子6年間の記録

1982(昭和57)年
山下家の五つ子の誕生から6年間の記録。国際エミー賞優秀賞受賞。

NHK特集 スポーツドキュメント 
江夏の21球

1983(昭和58)年
’79年日本シリーズの広島対近鉄第7戦、近鉄逆転優勝の好機を抑えた広島・江夏の21球を分析。

NHK特集 手塚治虫・創作の秘密

1986(昭和61)年
”漫画の神様”の仕事場にリモートコントロールを入れ、神業に近い仕事振りを初公開。

●科学

NHKスペシャル 驚異の小宇宙・人体

1989(平成元)年
最後の秘境”人体”のメカニズムをCGを駆使して映像化し、大きな反響を呼んだ。

●社会

NHK特集 世界の科学者は予見する・核戦争後の地球

1984(昭和59)年
科学者たちの予測で核戦争後の地球をシミュレーション。芸術祭大賞ほか受賞。

NHK特集 世界の中の日本Ⅳ
土地はだれのものか

1987(昭和62)年
バブルのまっただ中、高騰し続ける土地問題を海外比較などを交えて検証。

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